柴田聡子 『Your Favorite Things』
アルバム・タイトルといい曲名といい、この人の作品でこんなに欧文が並ぶのは初めてではないか。冒頭の “Movie Light” が衝撃的で、よく言われるブラック・ミュージックの影響よりもそうしたルーツから浮遊した印象を強く受けたが、ディアンジェロを思わせる “目の下” ~ “白い椅子” あたりで、そもそも21世紀のR&Bはハイブリッドでアブストラクトな音楽であることに思い至る。ミナスっぽい “Kizaki Lane” を挟んで “Side Step” のディスコ、 “Reebok” のシティ・ポップを経てフォーキーな “素直” への流れがすばらしい。力の抜けたウィスパー・ヴォイスのおかげもあってすんなり聴けてしまうが、 “Synergy” や表題曲など譜割も超絶的。こんな歌詞の乗せ方をしてサマになる人もいない。柴田と共同プロデューサー岡田拓郎の想像力と技術に感服。
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三浦大知 『OVER』
前作『球体』から5年半ぶりのアルバム(プロパーなオリジナル作『HIT』から7年ぶりという数え方もある)は、Nao'ymt、UTA、U-Key Zone、XANSEI、Tomoko Ida、Will Jay、Bipolar Sunshineなど洋邦の作家陣を迎え、グローバル・ポップとJ-POPのバランスを三浦の歌一本で取ったような精妙な作品だ。KREVAが吼える “全開” やミニマルな “好きなだけ” が印象的な前半にはアグレッシヴな曲が集まるが、常に優しくジェントルで殺伐としないのはこの人ならでは。英語詞の中に1行だけ登場する日本語にハッとする “Light Speed” からセクシーなR&Bの “羽衣” 、ドラムンベースで躍動する “ERROR” 、曲名通りに夢幻的な “Sheep” と続き、Furui Rihoの歌声もすばらしい “Everything I Am” で締めるアルバム後半がたまらない。
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ヒグチアイ 『未成線上』
「変えたくないけど愛されたい/誰でもなく君だけに/ああ いっそ もう いっそ/誰かのものになってよ」( “わがまま” )──ヒグチアイが歌う人物はかっこよくもきれいでもない。むしろ情けなく卑小だが、その姿はきっと彼女自身であり、その歌を聴いている我々でもある。だからヒグチは今日も共感を込めて力強く歌う。内攻を徹底して普遍を生み出さんとする、祈りにも似た営み(ズバリ “祈り” という曲もある)。「このままでいいのかい/人生は一度きり/今やりたいことが/明日やりたいとは限らない」( “大航海” )の鼓舞が上滑りしないのは、弱虫が必死で自分を奮い立たせる声だから。そこで「かっこ悪い」と「かっこいい」の逆転が起こ……るとは限らないのが人生だが、どのみち悪戦苦闘なのだから、歌でもうたって楽しくやりたいものだ。
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ばってん少女隊 “でんでらりゅーば!”
今回の落穂拾いは昨年12月リリースのこの曲。出先で流れていた有線で、並いる最新J-POPヒッツを押しのけてダントツで耳に残った曲だ。とにかく「でんでらりゅーば でてくるばってん でんでられんけん でーてこんけん」と歌われるフックのキャッチーさが尋常ではない。調べたら長崎県のわらべうたの引用で、やはり童謡や手遊び歌には特別な力があると再認識させられる(過去にはさだまさしや福山雅治が取り上げたそうだ)。そこにいかついドラムンベースを掛け合わせ、キュートなしとやかラップでつないだアイデアが見事だなと思っていたら、作詞はDaoko、作曲はGuruConnect。降参です。A面のクリスマス・ソング “ヒナタベル” もいい曲。九州のアイドル、というくらいしか知らなかったのを反省して、今後は注目していきます。